配偶者短期居住権の消滅と返還義務

配偶者短期居住権(民法1037条)は、存続期間の満了のほかにも、配偶者が建物の使い方に関する義務に違反したときや、配偶者がその建物について配偶者居住権を取得したときに消滅することがあります。そして消滅したときは、原則として配偶者は居住建物を返還しなければなりません。ここでは、消滅事由を定める民法1038条・1039条と、返還義務を定める民法1040条の内容を、条文に沿って中立に整理します。

配偶者の使用に関する義務(民法1038条1項・2項)

民法1038条1項は、配偶者短期居住権を有する配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用しなければならないと定めています(用法遵守義務・善管注意義務)。また同条2項は、配偶者は居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用させることができないとしています。

義務(民法1038条)条文上の内容
用法遵守義務・善管注意義務(1項)従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用する
第三者使用の制限(2項)居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に使用させることができない

義務違反による消滅(民法1038条3項)

配偶者が前記1項・2項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができます(民法1038条3項)。違反があれば当然に消滅するのではなく、居住建物取得者の意思表示によって消滅する仕組みである点が条文上のポイントです。

配偶者居住権の取得による消滅(民法1039条)

民法1039条は、配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅すると定めています。配偶者が遺産分割や遺贈などにより終身を原則とする配偶者居住権(民法1028条)を取得した場合には、つなぎの権利である短期居住権を重ねて存続させる必要がないためと説明されています。

消滅事由の整理

以上の消滅事由を、存続期間の満了(民法1037条1項各号)も含めて中立に整理すると次のとおりです。

消滅事由根拠条文
存続期間の満了民法1037条1項各号
用法遵守義務・善管注意義務違反、または無断での第三者使用に対する居住建物取得者の意思表示民法1038条3項
配偶者が配偶者居住権を取得したこと民法1039条

居住建物の返還義務(民法1040条1項)

配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者が配偶者居住権を取得した場合を除き、配偶者は居住建物を返還しなければなりません(民法1040条1項本文)。ただし、配偶者がその居住建物について共有持分を有する場合には、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては返還を求めることができません(同項ただし書)。配偶者は自らの共有持分に基づき建物全部を使用できる立場にあるためと説明されています。

収去義務・原状回復義務(民法1040条2項)

民法1040条2項は、返還の場面について、使用貸借の規定である第599条1項・2項および賃貸借の規定である第621条を準用しています。これにより、条文上、次のような関係が整理されています。

項目条文上の内容(準用)
収去義務・収去権(599条1項・2項の準用)相続開始後に建物に附属させた物を収去する義務を負い、また収去することができる。ただし分離できない物や分離に過分の費用を要する物は収去義務を負わないとされる
原状回復義務(621条の準用)相続開始後に生じた損傷を原状に復する義務を負う。ただし通常の使用収益によって生じた損耗および経年変化は除かれ、配偶者の責めに帰することができない事由による損傷も除かれる

なお、配偶者短期居住権には、このほか使用貸借等の規定を準用する民法1041条が置かれており、関連する規律が補われています。各条の適用の有無や具体的な範囲は事案により異なります。

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よくある質問

配偶者短期居住権はどんなときに消滅しますか?

存続期間の満了によって消滅するほか、配偶者が用法遵守義務・善管注意義務に違反し、または承諾なく第三者に使用させた場合に居住建物取得者の意思表示によって消滅させられることがあり(民法1038条3項)、配偶者がその建物について配偶者居住権を取得したときにも消滅します(民法1039条)。

配偶者短期居住権が消滅したら配偶者は建物を返さなければなりませんか?

配偶者が配偶者居住権を取得した場合を除き、配偶者は居住建物を返還しなければなりません(民法1040条1項本文)。ただし配偶者がその建物について共有持分を有するときは、居住建物取得者は配偶者短期居住権の消滅を理由として返還を求めることはできません(同項ただし書)。

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